楽園への招待状 モルジブ波乗り日記

成田からモルジブに向かう機内。僕等は向こうで待っている波を想像して、ついつい饒舌になってしまう。

サーフトリップはいくつになっても僕を少年の気持ちにさせる。遠足の前日の子供みたいに。これから始まるボートトリップへの期待と不安を胸に、夜もふけたマーレの飛行場を後にした。  窓の隙間から入ったまぶしい明かりに目を覚ますと、コバルトブルーの海の真中に浮かんでいた。内海の穏やかな海面は、僕に深い眠りを与えてくれた。タイミングよく、クルーの一人が、モーニングコーヒーを差し出す。気持ちのいい朝だ。船はいつのまにか走り出し、遠くに見えるラインナップに近づいていく。 「さーやりますか!」
貸しきり状態の海にすばやく飛び込む。サイズはないもののメンバーはそれぞれのファーストライドをメイクしていった。2フィートのメローな波、移動で固まった体をほぐす。初日としては充分な波に乗ることが出来た。これから少しずつサイズアップしていけば最高だ。
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ボードトリップのいいところはなんと言っても、ボート自体が動くホテルということだ。 クルーは4~5人。船長・コック・ガイド・アシスタントなど、彼らはホテルにいるようなサービスを提供してくれる。朝起きて、海を眺めていると朝食が用意され、食事が終わりに近づくと船はポイントに向かって走りだす。ガイドは風とうねりを読んで、今日のお勧めのポイントをチェックしていく。その間、僕等はリラックスして食後のティータイム。お気に入りのブレイクが見つかれば、アンカーを下ろしてサーフする。疲れたらデッキで昼寝、腹が減ったらランチタイムだ。
mold-02設備の整った船ならそれに越したことがないが、なんと言っても一番なのは、いいクルーに恵まれることだ。キャプテンとガイドはもちろん、それにいいコックが乗船していれば最高だ。釣り上げた魚を注文に応じて調理してくれ、うまい食事にありつける。スリランカ人のコックはいつも笑顔で、日本から持ってきたするめをあぶり、釣った魚でスープを作ってくれた。ガイドは、いろいろなアイディアを出してくれた。波が小さければ、トローリングにスノーケリング。はたまたドルフィンウォッチングと一日中、僕等を飽きさせない。いいクルーにめぐり会えれば、至れり尽くせりのサービスが約束され、充実したトリップとなる。

モルジブのシーズンは4~10月。僕等のトリップはシーズン前の3月だった。3月も季節の変わり目でいい波に当る確率は高い。それにシーズン前なら人も少ない。ただ、北からの風が強く、サーフできるポイントは限られた。それでも充分な波に乗ることができた。ハイシーズンの混雑を選ぶか、少しはずしてのんびりやるかは旅行の日程を決める上で重要。それ程、近頃モルジブではボートトリップの船が増えている。 サーフしたのはおもにホンキーというポイント。ホンキーはマーレ周辺で一番のメジャーポイント「サルタン」の裏側にあるグフィーブレイクだ。アウトは厚めのブレイクでカレントがきつく、インサイドでは海底の棚に当ってホレてチューブになるパワーのある波だ。
 静かな入り江に船を移動させ夜を迎えるので、夕方のセッションは早めに終了。そして夕日を見ながらのBeerタイム。ただし、冷蔵庫はいつでも満杯の為、キンキンに冷えているビールにありつくことができるのは先着5名まで。モルジブの海に沈んで行く太陽は大きく、海も空もいろんな色に染めて行く。その色は赤であったりオレンジであったり紫であったりで様々。毎日違った映画のエンディングを見ることができた。 ボードトリップも終盤に近づき、体はなんとか動くが、疲れが溜まってバテ気味。日本でのなまけた体は正直だ。波はラスト2日から4フィートオーバーに上がってきた。ホンキーのインサイドはバレルになり、みんなヒィーヒィー言いながら楽しんだ。
ローカルたちは、「これがシーズンのファーストスェルだ」 と口々に言った。僕等は帰国直前になって、シーズンスウェルをキャッチした。なんとも幸運な旅。しかし、日本での体力づくりが出来てないので、満足なライディングが出来ない。もどかしい。「次回来る時までに、体を鍛えよう」と、まだ帰ってもいないのに決意する。楽園の波は、一度乗ったら忘れられない。  サーファーにとっての楽園はいつまでも楽園でいて欲しい。ボートトリップは本来、危険なアドベンチャーだった。それが今では気軽にボートに乗ることができるようになった。だけど、波は昔と変わらぬパワーでブレイクしているし、ボトムの珊瑚も危険なままだ。経験を積んで用意も万全にして、トリップにのぞまないと痛い目に遭う。
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サーフトリップには情報が不可欠だ。旅行先に既に行ったことのある人に話を聞いて、本で調べて、ネットで検索して、いろんな情報を集める。持ち物にも注意をはらう。何しろいつも船の上、簡単に買物に出かけられないのだから。強力な日焼け止め・水中用キャップ・リーフブーツは必需品。それとお気に入りのCD。ほんの少しの日本食。醤油とわさびがあれば、釣りたてのおいしい刺身が食べらる。
 モルジブのローカル達はどんどんレベルアップしてきている。ローカルコンテストが行われ、今年の世界選手権には選手を派遣させた。すばらしい波があるところだから、これからますますハイレベルなサーファーが出てくるだろう。トリップで訪れた僕等は、欲張らずに、フレンドリーにサーフィンできるように心掛けたい。次の旅人のためにも。

まだ肌寒い成田に着き、夢の数日間は終わった。今からトレーニングに励もう。またあの波に乗るために。
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